移植を受けられた患者さんは、ドナーの血液細胞が増えてくることにより、免疫力を回復させて感染症から逃れるとともに、体の中にまだ残っている白血病細胞を根絶させ、健康を取り戻します。しかし、一方では、この血液細胞が患者さんの臓器を自分のものでないとみなして攻撃し、排除しようとします。この厄介で複雑な免疫反応こそが、「移植片対宿主病」(Graft-versus-host Disease;GVHD)であり、患者さんの生活の質(QOL)に大きな影響を及ぼす重大な移植合併症です。

 

 GVHDには、移植が行われてから100日以内に起こりやすい急性GVHDと、100日を過ぎてから起こりやすい慢性GVHDがあります。急性GVHDでは、皮疹、下痢、肝障害などを来たし、重症になると多くの内臓に障害が生じます。

 

 慢性GVHDでは、臨床症状は広範囲に及び、皮膚、眼、口腔粘膜、小唾液腺、消化管、軟部組織及び関節、肝臓、肺、など、様々な器官に多彩な症状が発現します。最も一般的な症状は皮膚への障害で、発疹が出たり、乾燥して硬くなり、脱毛・脱色したりします。また、涙腺に損傷を受けて涙の量が減少し(ドライアイ)、結膜が乾燥して痛みや視力障害を来す症状が現れます。口の中の唾液腺も侵されることが多く、食事の際に痛みを感じたり、パンが食べられなくなったりします。食道に病変があると、飲み込むのが困難になります。胃や腸が障害されると、胸焼け、胃痛、腹痛が現れるほか、適切な栄養吸収が妨げられ、体重減少・体力低下の原因になります。筋力が低下したり、関節が硬くなることで、四肢の運動が困難になることもあります。肝臓の障害から、肝機能検査値の異常がみられることがあります。肺が硬くなると、酸素を体に取り込む力が低下し、呼吸困難を生じることがあります。これら以外の臓器にも、慢性GVHDに関連する障害が出現することが知られています。いずれの症状も個人差があり、人によってどのような症状が、どの程度の重症度で出現するかはさまざまです。

 

 この慢性GVHDは移植後長期生存患者のおよそ半数に発症し、重症化すると致死率が80%に達するとの報告もあります。また,死亡に至らない場合であってもQOLを著しく低下させています。

 

 慢性GVHDに対する治療の第一選択肢はコルチコステロイドであり、およそ80%の患者に対して短期的な奏功が見られますが、長期の継続治療が必要であり、長期間投与に伴う多くの有害事象が発生しています。また、免疫抑制剤を併用しても、5年以内にコルチコステロイドの投与中止し得た患者は半数にとどまっています。さらに、コルチコステロイドに対して初期より不応である症例に対しては、現在までにエビデンスのある二次治療は報告されておらず、致死的な経過をとることもあります。今後、本邦においても慢性GVHDを発症する患者さんが増加することが予想されており、二次治療の選択肢の拡充が求められています。